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科目名心理学特殊講義B
担当者寺田 信一
単位数4単位
配当年次2年
科目区分選択必修
実地学期通年
授業形態講義
講義概要「こころ」は、どこにありますか。この質問を投げかけると、「頭」と答える人と「心臓」という人に大きく別れる。「頭」と答える人は、「こころ」の中で知性を重視する人が多く、「心臓」という人は、感情を重視する人が多いと言われている。実は、「こころ」という言葉は、この知性と感情の両者の意味が含まれる言葉であり、答える人がどちらを重視しているかによって答えが違うのである。脳を中枢とする神経活動は、知性ばかりでなく、感情的な働きとも密接な関係にある。本講義では、知性と感情の働き全体としての「こころ」が神経活動の所産であるという立場から講義を行う。
 この立場の研究は1960年代にようやく本格化した分野であり、40年そこそこの歴史しかない。それまでは、脳に傷を負った人が、どういう症状や障害を示すかを調べる研究が主であった。この研究分野が、いわゆる神経心理学である。もちろん、このアプローチは現在も続けられていて、貴重な知見を提供している。ところが、1960年代以降、研究の方法・領域は大きく変化し、学際的な研究が飛躍的に増大してきた。とても、従来の神経心理学というカテゴリーに分類できなくなってきている。
 そこで、心に関わる神経科学全般に範疇を広げてみると、1980年代後半から急速に解明が進み、従来の理論は根底から変化してきている。そのキーワードは、モジュール性(modularity)とアポト−シス(apoptosis)である。モジュール性は、神経科学と認知科学との融合によって発展してきた概念であり、「こころ」の異なる働きが脳のそれぞれの場所で実現されることを示している。「こころ」の機能単位を解明することは、現在の神経科学の主要なテーマの一つとなっている。一方、アポト−シスは細胞死を意味し、その分子生物学的メカニズムの解明が進んでいる。神経科学では、神経細胞が発達途上に過剰な増殖をして、その後に細胞死することで神経回路網が完成していくことが明らかになりつつある。この概念は、モジュール構造をもつ脳がどのように発生するのかを解く重要な概念である。 本講義では、前期には、「こころ」が神経活動の所産であることを、具体例を挙げて説明し、脳のモジュールの働きが悪くなると、「こころ」のどのような働きが悪くなるのかを解説する。後期には、脳がどのようにできてくるのかを、子供の「こころ」の発達的変化と関係させながら述べ、発達上の脳の障害が、子供の「こころ」のどのような障害を生じるかを解説する。その中で、「こころ」が育つために、社会環境との関わりがいかに大切であるかを明らかにする。
評価方法講義中に随時理解度について、小テストを行う。前・後期末に筆記試験を行う。
  
教科書・参考書等1.Walsh「神経心理学−臨床的アプローチ 第2版」医学書院(1997)
  2.Zeki「脳のヴィジョン」医学書院(1995)
  3.津本忠治「脳と発達」朝倉書店(1986)
  4.坂野登「こころを育てる脳のしくみ」青木書店(1999)
  
その他(履修条件、
履修上の注意事項)